水の存在

 水の惑星といわれる私たちの地球・・・表面の約70%が水の海におおわれ、その海の平均の深さはおよそ3800m、ちょうど富士山がすっぽり埋まってしまう深さということになります。・・・この大量の水のおかげで生命の進化が育まれ、生命の惑星ともなったわけです。その水はどこから来たのでしょう。その歴史をについて考えてみましょう。

1.材料となる水素、酸素原子の存在

 水といえばHO、つまり水素と酸素の化合物です。もともと宇宙が水素で満たされていることはよく知られた事実です。一方、酸素はどのようにして生成されるのでしょう。水素が集まり、恒星が誕生し、恒星の中心での原子核融合反応によって、水素からヘリウム、さらに炭素、窒素、酸素といった重い原子がつくられていきます。したがって、第一世代の恒星の材料が、純粋に水素だけだったとしても、星の内部で酸素原子はつくられていきます。そして恒星がその一生を終え、惑星状星雲として自らのガスを宇宙空間にまき散らしていくとき、酸素原子は中心にある白色矮星からの紫外線のエネルギーを受け、波長500.7nmの青緑色の輝線を発するのです。

 惑星状星雲の多くに、青緑色の成分が確認できますが、これは酸素原子の存在を示唆していると思われます。青緑色の成分が強い惑星状星雲として、NGC246、NGC7662の画像を見てみましょう。

NGC246
35cmシュミットカセグレン望遠鏡
レデューサー
合成焦点距離2485mm(F7)
露出20分を4枚コンポジット合成(加算平均)
キヤノンEOS kiss D
ISO1600

ホワイトバランス  オート
UIBAR&NBN-PVフィルター

NGC7662
35cmシュミットカセグレン望遠鏡
直焦点3910mm(F11)
露出30秒を6枚コンポジット合成(加算平均)
キヤノンEOS kiss D
ISO800

ホワイトバランス  オート
天体用赤外カット&NRF-JPNフィルター

NGC7662はブルースノーボールとも呼ばれ、眼視でも明らかに青緑色をしていることがわかります。

2.散光星雲にひそむ酸素原子

 惑星状星雲あるいは超新星爆発によって終焉を迎えた恒星は、大量の酸素を宇宙空間にまき散らすことになります。ですから、一見電離水素によって赤く輝く散光星雲の中にも大量の酸素が存在するはずです。

・散光星雲を次の方法で撮影してみます。
NBN-PVフィルターにPMOⅢフィルターを重ねると眼視用OⅢフィルターになります。透過波長はおよそ490nm~510nmと650nm以上となります。赤い光はよく知られた電離水素の波長656.3nmのHα線ですから、カラー画像をRGBに三色分解してからGとBの2色合成を行えば、490nm~510nmの波長を取り出したことになり、波長500.7nmの青緑色の酸素輝線をとらえることができると考えられます。

(1)M42オリオン大星雲の全景(画像処理はダーク減算、コンポジット、4×ソフトビニングのみ)

カラー画像

GB2色合成画像

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2485mm(F7)

露出5分を4枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PV&PMOⅢフィルター

 GB2色合成画像では、ダストによる反射成分も拾ってしまっているでしょうが、ほぼ酸素の存在を示しているとも考えられます。

(2)M42オリオン大星雲の中心部(画像処理はダーク減算、コンポジット、2×ソフトビニング、トリミングのみ)

カラー画像

GB2色合成画像

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2485mm(F7)

露出30秒を4枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PV&PMOⅢフィルター

 カラー画像では、赤い直線状の衝撃波面のように見える電離水素(Hα線)の領域がありますが、GB2色合成画像には見えていません。水素と酸素の分布が異なっているようすがわかります。

 水素原子と酸素原子が存在する散光星雲の中で、どのようにして水分子がつくられるのでしょうか。密度の希薄な宇宙空間で、水素と酸素が結合するのはとてもむずかしいように思えます。しかし、星間微粒子が関与することで水素分子が生成され、こうした分子雲の中で水分子HOが生成されていると考えられています。

3.惑星系における水分子の存在

 オリオン大星雲のような散光星雲から、46億年前、私たちの太陽系も生まれてきたのでしょう。第二世代以降の恒星である太陽を中心とする太陽系には、原始惑星系の時代からすでに水分子が存在していたと考えられます。

 興味深い実験があります。隕石をくだいて高温に加熱すると水が出てくるというものです。46億年もの昔、地球は他の太陽系惑星とほぼ同時に、原始太陽系星雲から微惑星、つまり大きな隕石が衝突をくり返して合体しながら成長し誕生したといわれています。そのときの隕石に水が含まれていたとすれば、地球にある大量の水の存在を説明できます。そうすると、地球以外の惑星や衛星にも水は存在するはずですが・・・どうでしょう。

実はあります。

(1)月
NASAの探査機エルクロスが月面衝突をして、舞い上がったダストのスペクトル分析から水分子の存在が確認されました。

(2)火星
NASAの探査機フェニックスが地表を掘ったところ、地表下約5cmに白い物質が発見され、熱・ガス分析機による分析の結果、水の氷であることが確認されました。

(3)金星
「おそらくありました」というべきでしょうが、強烈な温室効果による500℃もの高温で水蒸気となり、太陽からの強い紫外線で水素と酸素に分解され、軽い水素は宇宙空間に逃げ去っていってしまったと考えられています。

(4)エウロパ(木星のガリレオ衛星のひとつ)
「あります」といえるでしょう。多くの科学者が地表の下に深い水の海が眠っていると考えています。

 こんなふうに考えてくると、水はこの宇宙でけっこうありふれた物質のように思えてきます。「今の宇宙には生命の発生と進化に不可欠ともいえる水が大量に存在する」→「生命の発生と進化はありふれている」といえるのかもしれません。


 地球と同じような環境の太陽系外惑星が発見されるとき・・・それは、私たち人類の生命観、そして世界観が変わるときなのかもしれません。