月の光条Watching!

 最も身近な天体である月・・・でも、ふだん満月は見ない。そもそも眩しすぎるし、表面の凸凹も分からずつまらない。夜空も地上も月明かりで明るく、もちろん星雲・星団どころでもありません。だからこんな時は天体観測はいつもお休み・・・と思っていた。ところが、この満月のときに限って如実にその姿を現すものがあるのです。それが「光条」・・・隕石衝突でクレーターができたとき飛び散った物質が、月面に落下し線状になって見えているのです。こう考えると満月もけっこう楽しい。満月の日を待って「月の光条Watching」をやってみました。

アナクサゴラス(径51km)

氷の海のさらに北、月面最北端でけっこう立派な光条を放っています。真上から見ることができたらきっと見事なものでしょう、氷の海を横切っているようすもわかります。


アリスタルコス(径40km)

月面上で最も明るいクレーター・・・地球照でも見えるアリスタルコス。でも、その形成は4億5000万年前と考えられています。そのきわだった明るさに目をうばわれて、ふだんは光条の存在に気がつかなかったものです。あまり広がりはありませんが、うねうねとしたようすがわかります。

           

クレーター右下のアリスタルコス台地のところには光条が見えません。ということは、アリスタルコス台地の形成は4億5000万年前以降ということになるのでしょう。


コペルニクス(径93km)

約10億年前に形成されたとされているクレーターで、その光条も見事です。あたり一面をすべてかき消すかのように見える光条・・・すぐ左にエラトステネスという直径58kmほどで周壁のはっきりしたクレーターがあるのですが、その場所をも光条が貫いています。ということは、エラトステネスはコペルニクスより古いということでしょう。

 

ところで、コペルニクスの光条の広がりは大きく、その隕石衝突のすさまじさを感じさせてくれますが、まっすぐではなく途中で枝分かれして見えるところが目立ちます。飛び散った岩石体が上空で爆発したりしたのでしょうか。謎です。


ケプラー(径32km)

画像中央に見えるケプラー・・・お隣のコペルニクスの光条に比べると直線的でクレーターの周囲が明るい光条物質(?)でおおわれているのが特徴的です。


晴れの海

広大な晴れの海の真ん中を一筋の光条が貫いていますが、この光条に沿って画像上方にたどっていくとティコがあります。ということは、この光条はティコから放たれたものだと考えられます。南半球にあるティコから北半球のこの場所まで、およそ2000kmも物質が飛び散ったことになります。

 

また、晴れの海自体に濃淡があることや、たくさんの明るい光条らしきものが見えています。 
       


メシエ

豊かの海の中、画像中央やや下に小クレーターが2つならんでいます。左がメシエ、右がメシエA・・・どちらも直径10km程度の大きさですが、メシエの方はやや東西(左右)に伸びた楕円形のクレーターです。地上での高速衝突実験では、かなりの斜め衝突でもクレーターは円形になることが知られています。メシエの場合は水切り石のように表面をかすめるように隕石が衝突しメシエAを形成したのでしょうか、すぐその右方向に光条が2本まっすぐに伸びています。

豊かの海の左上にある大きく目立ったクレーターはラングレヌス・・・周壁も中央丘もくっきりしていてまだ新しそうです。よく見るとやわやわとした光条が豊かの海に向かって広がっているのがわかります。


プロクルス(径28km)

欠け際に近い丸い危機の海のすぐ右で光条を放つプロクルス・・・そう大きなクレーターではありませんが、3方向に光条を放っているようすが印象的です。危機の海側にはさらにやわやわとした光条が伸びているようすがわかります。しかし、反対の右側、静かの海・夢の浅瀬方向には光条らしきものは見あたりません。なぜでしょうか?

地球に比べて重力が弱く、大気もない月では、さまざまな入射角度で隕石が衝突したと考えられます。きっと、プロクルスでは右からのかなり浅い角度での隕石衝突で大爆発が起き、クレーターは円形に形成されたものの、爆発後の物質はその運動エネルギーを獲得して、主に左方向に飛び散っていったと考えられるのですが、いかがでしょうか。


ライナーγ

画像左上方にケプラー、左下にアリスタルコスが見えています。そしてその右、画像中央に直径30kmほどのライナーというクレーターがあります。このクレーター自体には特に光条らしきものは見あたらないのですが、そのすぐ右になにやら明るい白斑があり、そこから左下にひょろひょろと明るい筋が伸びています。これが“ライナーγ(ガンマ)”。一体何でしょう?特に起伏はなく、放射状でもありません。一説によると彗星の衝突痕らしいのですが・・・謎です。


ティコ(径85km)

月面で最大の光条を放つティコ、深さはおよそ5km、周壁もはっきりしていてとても新しいように見えますが、その形成は約2億年前と考えられています。つまり、恐竜全盛の頃ここで隕石衝突、大爆発があったことになります。

 

恐竜たちはその光景をどのように見たのでしょうか!?

 

1972年1月1日 2時05分
6cm屈折経緯台
2倍(APS)テレプラス
合成焦点距離1800mm(F30)
ペンタックスSP
露出1/30秒

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

セレストロンレデューサー

LA26mm

ニコンクールピクス990によるコリメート撮影

ステライメージにてモノクロ変換


ティコの強烈な光条が月の反対側、北半球まで達していることがわかります。

 こうして月を見てみると、たくさんの光条に覆われていることがわかります。ふだんリンクルリッジ(海のしわ)に見えるところが光条のように明るく目立ったり、発生源のはっきりしない光条があったり・・・でも、月にこれだけたくさんの隕石衝突があったということは、より重力の強い地球にはさらに相当数の隕石衝突があったと考えるのが自然です。地球上でもアリゾナのバリンジャー隕石孔をはじめとしてクレーターは見つかっていますが、その多くは地球が生きているおかげで消えてしまったのでしょう。そして、隕石衝突が一段落して、はじめて私たち人類の繁栄があるのでしょう。