星の一生と生命

 人間にその一生があるように、星にもその一生があるのです・・・すべての銀河の中で・・・。人々を眺めてみれば、赤ちゃんからお年寄りまでさまざまな人々がいます。そして、その年齢によって同じ人でも違った姿になります。また、それぞれの個性によって同じ年齢でも違った姿になります。これと全く同じことが星の世界でもいえるのであります。さまざまな天体の姿は、その年齢と個性から理解することできるというわけです。また、星の誕生から終末、そして新たなる星の誕生・・・こうした輪廻のなかで生まれくる生命・・・このドラマチックな世界を、天体写真を眺めながら追っていきましょう。

 

1.誕生以前

 まず、私たちの太陽系の誕生について考えてみましょう。それはおよそ46億年前という気の遠くなるような過去、何らかの理由により宇宙空間に存在する分子雲の濃いところが生じ、それが重力によって周囲の分子雲を引き寄せ、巨大化しながら重力によって収縮し濃密化していくことから、原始太陽系星雲が生まれてきたとされています。材料は水素やヘリウムなどのガスとダスト(固体微粒子の塵)の混合物です。例えば、あの有名なオリオン大星雲M42では、ハッブル宇宙望遠鏡の観測によりたくさんの原始惑星系円盤が発見されています。その多くは惑星の材料ともいえるダストによって、暗いシルエットになっているのです。

オリオン大星雲M42

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2130mm(F6)

露出3分を3枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

天体用赤外カット&NRF-JPNフィルター

2.暗黒星雲

 天文学が現在のように知見を深める以前は、何も見えない真っ黒い領域は何もないところだと考えられていました。しかし、今では、そこは暗黒のダストがシルエットになって背景の星の光を遮っていることがはっきりしています。いわゆる“暗黒星雲”であります。むしろ、本当に何もない領域を撮影すると、ハッブルディープフィールドのように一枚の画像に私たちの銀河系の外にある遠方の無数の銀河が写り込んできてしまいます。

 暗黒星雲として有名なものとしてオリオン座の馬頭星雲があります。電離水素の発光で赤く輝く星雲の手前にある暗黒のダストが、馬の頭のような形にシルエットになっているのです

馬頭星雲B33

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2485mm(F7)

露出20分を5枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PVフィルター

 そして画像の右半分と左半分で星の数が違っています。左側の方が星の数が少ないように見えます。これは、実際に星の数が違うのではなく、左側に暗黒のダストが多く、星の光を遮っていると考えられています。

 こんなふうに宇宙空間には暗黒のダストが豊富に存在しています。そして、こうしたところで収縮が始まり恒星が生まれれば、ダストから岩石惑星が誕生しても何の不思議もないといえるでしょう。

 

3.原始星

 いて座の三裂星雲M20は発光星雲と反射星雲が同居するめずらしい星雲です。赤い発光星雲を切り裂いているように見える黒い領域はダストがシルエットになった暗黒星雲です。つまり、発光星雲と反射星雲そして暗黒星雲がすべて存在しています。青い反射星雲は若い星の光を反射し青く光っています。その一方で、赤く光る電離水素領域の中に、スピッツアー赤外線望遠鏡によって、たくさんの赤外線星が見つかっています。誕生しつつある原始の星は、まだ水素原子の核融合反応には至っておらず、収縮によって重力の位置エネルギーがさかんに熱エネルギーに変換し、主に赤外線で輝いているのです。しかし、この写真のような可視光画像では、可視光が電離水素領域に同居しているダストに邪魔をされ見えなくなっているのです。

三裂星雲M20

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2485mm(F7)

露出15分を3枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NRF-JPNフィルター

 まさに原始星が隠れながら、ひっそりと、しかも着実に原始の火を灯そうとしているのです。

 

4.星の誕生

 オリオン大星雲M42に望遠鏡を向けてみると、小さな望遠鏡でもその中心に輝く4重星を見ることができます。この4重星は誕生してからまだ10万年から200万年程度の若い星でトラペジウムと呼ばれています。

オリオン大星雲M42中心部

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

直焦点3910mm(F11)

露出30秒を4枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO800

ホワイトバランス  オート

天体用赤外カット&NRF-JPNフィルター

 まわりのモクモクとした赤い光はこのトラペジウムの星たちが放つ紫外線よって電離した水素ガスが発光しているもので、このあたりには星の材料である水素原子が豊富に存在していることが分かります。また、暗くシルエットになって見えているのはダストですから、このあたりではこれからもどんどん原始惑星系円盤が生まれていくのかもしれません。

 なぜなら、例えば私たちの地球のような岩石惑星が生まれるためには、固体の塵であるダストの存在が不可欠だと考えられるからです。

 

5.創造の柱

 へび座のわし星雲M16の中心部には、3本の柱状になった雲が見えています。これは、上方の恒星からの放射圧を受けながらも、なんとか侵食されずに持ちこたえている濃密なガスとダストの塊です。おそらく、この柱の内部ではたくさんの星が生まれつつあるのでしょう。“創造の柱”とよばれる所以であります。

わし星雲M16中心部

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2485mm(F7)

露出15分を3枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PVフィルター

 暗黒星雲として有名なあの馬頭星雲も、手前から星の光に照らされていればこんな風に見えることでしょう。

 

 このわし星雲M16の全体を見てみると、星団と同居していることがわかります。この星団は散開星団NGC6611で、たしかに、この星雲で新しい星たちがどんどん生まれてきたことを意味しています。

わし星雲M16

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2485mm(F7)

露出15分を3枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PVフィルター

6.星雲から星団へ

 もし、球状にガスやダストが集まった巨大な散光星雲があったとしましょう。すると、中心付近では重力により、ガスやダストがますます濃密になっていくでしょう。そうすると、やがて中心にたくさんの星が生まれ、星団として輝き出すと同時に、ガスやダストは星になってしまったので無くなり、真ん中にポッカリと穴があいたような姿になると思われます。

 例えば、いっかくじゅう座にあるばら星雲NGC2237~9がそのような天体ではないかと思えるのです。真ん中のポッカリとあいた穴のようなところに、輝きだした散開星団NGC2244が見えています。

ばら星雲NGC2237~9

12.5cmライトシュミットカメラ

475mm F3.8

露出15分を2枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

天体用赤外カット&NBN-PVフィルター

 ばら星雲の北西部を拡大して見てみましょう。左下に散開星団NGC2244の星々が見えています。そして、ヒビが入ったように黒く見えているのはダストの暗黒星雲であります。

ばら星雲NGC2237~9北西部

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2130mm(F6)

ビクセンVX-2 露出180分

プロビア400F

NBN-PVフィルター

 暗黒星雲の小さなかたまりがあちらこちらに存在しています。これらはグロビュール(胞子)とよばれ、濃密なダストのかたまりです。ダストというからには固形物がたくさん存在しているわけです。ですから、これらが収縮してつくられる恒星系には、岩石質の地球型惑星がたくさんありそうに思えてきます。

 

7.散開星団

 私たちの太陽は、今はひとりぼっちです。夜空に見える星々のうち、明るいものでも太陽系から数10光年以上離れています。全天で最も明るいあの「シリウス」ですら8.6光年もの距離にあるのです。しかし、46億年前、太陽が誕生したときにはもっと近くにたくさんの星があったでしょう。なぜなら、恒星は巨大な星間ガスとダストから、一度にたくさん、つまり前述のNGC2244のように散開星団として生まれてくるからです。

 下の写真は、おうし座にある有名な散開星団「すばる」M45の画像です。

すばるM45

12.5cmライトシュミットカメラ

475mm F3.8

露出12分を3枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NRF-JPNフィルター

 生まれてからせいぜい数1000万年というとても若い星の集団です。青く輝く反射星雲も見えていて、恒星になりきれなかったダストの名残のようにも思えますが、実は星団とは全く関係のないダストが漂ってきているというのが定説のようです。この星雲があるために、望遠鏡で眺めると、まるで夜霧の中のライトのように星の光がうるんで見えます。

 次の写真は、たて座にある散開星団M11の画像です。ずいぶん星が密集しています。実径16光年の中に200個の恒星があるとされていて、星団の中心付近では星と星との間隔は1光年にも満たないだろうと考えられています。もし今の太陽がこの星団の一員だったら、地球の夜空は“シリウスだらけ”といった感じでずいぶんにぎやかな光景となることでしょう。

M11

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2130mm(F6)

露出3分を3枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO1600

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NRF-JPNフィルター

8.恒星進化と生命

 私たちの太陽は主に水素原子を材料として生まれてから今まで46億年間、熱や光などのエネルギーを出し続けてきました。太陽では1500万℃もの超高温そして超高圧の中心部で水素原子核が衝突・融合しヘリウム原子核になるときに莫大なエネルギーを放出するのです。いわゆる原子核融合反応であります。時間の経過とともに核融合はさらに進み、炭素、窒素、酸素といった重い原子核もつくられていきます。つまり、恒星は水素原子から多様な元素をつくり出す、いわば“元素製造工場”であります。太陽もあとおよそ50億年間は“元素製造工場”でありつづけるといわれています。しかし、その後は大きくふくらみ、表面温度も下がった「赤色巨星」といわれる星になり、最後は球殻状に宇宙空間へガスを吹き出した丸い星雲になるのです。惑星状星雲の誕生であります。したがって、惑星状星雲には“多様な元素”が豊富に含まれているのです。そして、これらの“多様な元素”が、次の世代の星の材料になるというわけです。ですから、この地球そして私たちを含む地球上のあらゆる生命が“多様な元素”で構成されているという事実は、太陽が137億年前とされる宇宙開闢以来、ある程度時間が経過してからできた第二世代以降の恒星であることを意味しているわけです。

 

  私たちの体を構成している元素の原子は、はるか昔に太陽以外の別の恒星の内部でつくられたもの・・・あの超高温、超高圧の地獄のようなところでつくられたもの・・・それらが集まり自分を構成している。そう考えると、なんとも複雑な気持ちになってしまいます。

 

9.惑星状星雲

 生命誕生の鍵をにぎる天体・・・それは、惑星状星雲でしょう。星の死であると同時に、新たなる星、つまり新たなる恒星系、惑星系の材料なのですから・・・。惑星状星雲の実際の姿を見てみます。

 下の写真は、こと座にある有名な惑星状星雲M57リング星雲です。

リング星雲M57

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2485mm(F7)

露出6分を4枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO800

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PVフィルター

 およそ2000光年ほどの距離にあり、実径は1光年にも満たない天体です。中心にはか細く光る白色矮星があります。元の星はこの白色矮星になって、紫外線を放っているのです。そして、その紫外線のエネルギーを受けてガスの原子が発光しています。波長の短い青緑色は酸素原子、波長の長い赤色は水素原子や窒素原子というように、原子によって発光する波長つまり色が決まっているので、とてもカラフルです。

 カラフルと言えばブルースノーボールと呼ばれている天体もあります。アンドロメダ座にある惑星状星雲NGC7662で、実径はリング星雲M57よりさらに小さく0.28光年×0.24光年とされています。

ブルースノーボールNGC7662

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

直焦点3910mm(F11)

露出30秒を6枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO800

ホワイトバランス  オート

天体用赤外カット&NRF-JPNフィルター

 青色の輪郭に白でCの字、中央のうっすらとした赤、中心の白色矮星もなんとか確認できます。

 それでは惑星状星雲というものはすべて丸いのでしょうか。死んだ星が一様にガスを放出していけばたしかに球殻状に膨らむでしょうから、丸い形になるのが自然です。しかし、ガスの放出に偏りがあれば、丸い形にはならず“惑星”のようには見えないでしょう。

 いっかくじゅう座にNGC2346という天体があります。

NGC2346

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2485mm(F7)

露出15分を3枚コンポジット合成(加算平均)

ASTRO 50D(冷却 EOS 50D)

ISO3200

ホワイトバランス  オート

NBN-PVフィルター

 星の終末の姿ではあるので“惑星状星雲”ではありますが、丸くはありません。蝶が羽を広げたように見えます。双極構造であります。おそらく中心星が近接連星であるためと考えられています。このように双極構造をもつ惑星状星雲はたくさん見つかっています。

 

10.超新星残骸

 太陽質量の8倍を越える重い星が進化して最期を迎えるときには、中心ですさまじい重力崩壊が起こり、重力のエネルギーが爆発のエネルギーへと転化し超新星として明るく輝くことになります。その明るさたるや、その星の属する銀河全体の明るさに匹敵することもあり、超新星爆発と呼ばれます。そして、すさまじい勢いでガスを宇宙空間にまき散らすのです。このガスは星雲として観測されますが、超新星爆発の残骸なので、「超新星残骸」と呼ばれます。そして、その中心に中性子星やブラックホールを残すのです。

 超新星残骸として有名なおうし座のかに星雲M1の画像を示します。

かに星雲M1

35cmシュミットカセグレン望遠鏡

レデューサー

合成焦点距離2485mm(F7)

露出10分を6枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D

ISO800

ホワイトバランス  オート

天体用赤外カット&NBN-PVフィルター

 宇宙空間へガスを吹き出している点では惑星状星雲と同じですが、フィラメント状のガスが今でも猛烈な勢いで広がりつつあり、その勢いは惑星状星雲をはるかに超えるものです。惑星状星雲が“フワッ”となら、超新星残骸は“ドカーン”という感じであります。ですから、超新星残骸のガスはやがて衝撃波となり、星間ガスを掃き集め、密度の濃い領域をつくることがあります。そしてこの領域こそが、1の“誕生以前”のところで述べましたが、宇宙空間に存在する分子雲の濃いところとなり、新たなる星の誕生へとつながっていくといわれているのです。つまり、“誕生以前”のところで述べた“何らかの理由”のひとつではあるのです。

 

11.未来へ

・・・こうして次の世代の星が生まれ、さらには新たなる生命へと受けつがれていくのでしょう。

 宇宙開闢から137億年・・・ビッグバンの直後にはせいぜい水素とヘリウムくらいしかなかったこの宇宙に、星の誕生と死のくり返しの中で多様な元素が増え、46億年前の太陽系の誕生の頃にはけっこういろいろな元素が揃っていた。だからこそ46億年の歳月を経て、生命が進化し人類が誕生することができた・・・と、ここまでは今までの歴史であります。これから未来に向かってどうなっていくのでしょうか。おそらく星の誕生と死によって、さらに多様な元素が増えていくでしょう。そういう意味では生命の材料も増えていくといえるのでしょう。しかし、長い時の流れの中で原子が固着していく現象、つまり、星の死骸である白色矮星や中性子星、ブラックホール、あるいは冷えきった褐色矮星や惑星系から放り出された“浮遊惑星”なども増えていくでしょう。そういう意味では生命の材料が枯渇していくのでしょう。

 さあどちらが卓越するのか、あるいは他にどんな要素があるのか、そしてどんな未来があるのか・・・いろいろ考えてみるのは楽しいものであります。