惑星状星雲の酸素と宇宙生命体

 私たちの生命をはぐくんできた母なる星、太陽。しかし、この星も宇宙創生の頃から存在していたわけではありません。現在知られている宇宙のはじまり、つまりビッグバンは約137億年もの昔のできごと・・・太陽や地球、つまり太陽系の年齢はおよそ46億歳・・・というわけで、太陽は第2世代、もしくは第3世代の恒星と考えられているのです。きっと、137億年前から46億年前までの約90億年の間には、数知れぬほどたくさんの星たちが死んで超新星残骸や惑星状星雲となり、自らがつくった重元素を宇宙空間にまき散らしたでしょうから、太陽は第2世代や第3世代だけでなく、もっとたくさんの世代の星たちがまき散らした元素が混ざり合ってできた産物だろうと思えてしまいます。

 あたりまえですが、私たちは空気中の酸素を吸って生きています。だから、空気のうすい高山では酸欠で高山病になってしまうし、運動をすれば息がハーハーして体は酸素を欲しがります。とにもかくにも“酸素”は私たちにとって、なくてはならない元素なわけです。

 この酸素・・・星の死骸である惑星状星雲にはけっこう大量に存在するようです。だから第2世代以降の太陽や地球にも酸素があり、私たちも生きていられるということになるわけですが・・・。酸素原子は惑星状星雲のような1立方cmあたり平均10000個の原子しかない希薄な宇宙空間(これは地球上でいう通常の真空のさらに1000分の1の希薄な密度ですが、惑星状星雲の大きさは1光年程度ですから全体では相当な量でしょう。)では、禁制線とよばれる5007ÅのOⅢ線という輝線を発することが知られています。5007Åというと緑色(青に近い)ということになります。だから、カラー画像をRGB分解して、赤、緑、青成分の3つに分け、G画像(緑色成分)に注目すれば、酸素原子の存在や分布のようすを知ることができるでしょう。

★NBN-PVフィルターによるM57のカラー画像から

NBN-PVフィルター使用(2006年8月19日 C14-EX F7 EOS kiss D ISO800 6分露出で撮影)

R画像(赤)

G画像(緑)

B画像(青)


1.G画像から、酸素原子はリング内部にも希薄ながら充満しているようです。2本の線状の構造も見えています。OⅢ線は5007Åのほか4959Åもありますが、M57では5007Åが強いことが知られています。

2.R画像は水素のHα線(6563Å)と窒素のNⅡ線(6548Åと6584Å)のようすを示していると考えられますが、衝撃波面を感じさせる複雑な構造が見られます。

3.B画像は4861ÅのHβ線のようすをかなり反映していると考えられます。

4.R画像とB画像に共通して、リング外周に毛羽立ったようなようすが見られますが、R画像のHα線、B画像のHβ線によるものとすれば、電離水素による構造でしょう。

5.白色矮星である中心星はR画像では見えていません。これは中心星がよほど高温であることを示していますし、そう考えると強烈な紫外線を発して星雲原子を励起させ発光させていることも納得させてくれます。

★PM-OⅢとPM-Hβフィルターで検証してみます。

 NBN-PVにPM-OⅢフィルターを重ねて使用するとOⅢフィルターに、PM-Hβフィルターを重ねて使用するとHβフィルターになります。しかし、眼視用として設計されているためか、Hα付近(赤)にリーク(光の漏れ)があり、下図のように写ってしまいます。同日撮影された画像を示します。

NBN-PVにPM-OⅢを重ねた元画像

NBN-PVにPM-Hβを重ねた元画像


C14-EX F7 EOS kiss D ISO800 8分露出で撮影

 そこで、それぞれの画像をRGBに3色分解してから、R画像(赤)を除いたG画像とB画像のみで2色合成してみます。つまり、R画像を減算してみるわけです。こうすれば、それぞれOⅢ線とHβ線のようすがはっきりするでしょう。こうして得られた画像を下図に示します。

OⅢ線

Hβ線


OⅢ線の方がHβ線よりも強いようすが分かります。

 あえてダーク補正以外の画像処理をしていないのでコントラストはありませんが、OⅢ線、Hβ線のようすが分かります。こうしてみると、OⅢ線の強さから、酸素原子の存在は明らかといえるでしょう。

★宇宙生命体は本当にいるんでしょうか!?

 SETIの研究盛んなる昨今・・・この宇宙に知的生命体は本当にいるんでしょうか。太陽系外惑星が見つかりつつある現状の延長線上で、知的生命体の存在が確認されていく日もきっと来るのだろうと思ってしまいます。

 私たちの太陽も約50億年後には赤色巨星から白色矮星への道のりをたどり、惑星状星雲となっていきます。そして、その物質のほとんどすべてが星間空間に散っていく・・・太陽だけでなく、この地球を、そして私たちの体を構成している物質すべてが星間空間へと散っていくわけです。そして、そのときの太陽系を観測する観測者がいるのかもしれません。これまで見てきたように、今ですら私たちが観測しているのですから・・・。

 これまで見てきたように惑星状星雲には、一般的に水素の他、窒素や酸素など重元素が含まれています。水素と酸素といえば水、窒素と酸素は空気・・・水も空気もなかったら私たちは生きていけません。こう考えると、どうにも惑星状星雲と生命がつながってしまうのです。惑星状星雲が広がってできた星間ガスは重元素を豊富に含んでいます。こうした星間物質から、また新たな恒星系が誕生していきます。恒星は輝きながら重元素をつくる“重元素製造工場”ですから、後の世代の恒星系ほど重元素すなわち“生命に必要不可欠な元素”に満ちていることになります。これまで見てきた惑星状星雲たちが恒星系だった時代はすでに過去です。50億年後の宇宙はもっと“生命に必要不可欠な重元素”に満ちていることでしょう。したがって、太陽が白色矮星となった太陽系50億年後の惑星状星雲を観測してくれる観測者は、今よりも増えていると考えるのが自然でしょう。さらに、私たちひとりひとりの体を今構成している原子が、遠い将来別の宇宙生命体の体を構成している可能性も“0”とはいいきれません。

 惑星状星雲から宇宙生命体へ、宇宙生命体から惑星状星雲へ・・・この輪廻は永遠に続いていくのかもしれません。