恒星の終焉と原始惑星状星雲

 恒星の終焉の姿として知られる惑星状星雲・・・けっこうカラフルで、いろんなタイプがあり、興味深いものであります。

 

 みんなそれぞれに恒星から吹き出されたガスの原子が輝線を発し、きれいな色合いです。中心でかぼそく光る白色矮星からの紫外線のエネルギーで輝いているのです。太陽も50億年後には死を迎え、こうした惑星状星雲になっていくと考えられています。特に、Hα線付近の赤い光とOⅢ線、Hβ線付近の青緑の光を通し、他の波長はすべてカットする特性を持つナローバンドタイプのNBN-PVというフィルターを通すと・・・。

 

27 亜鈴状星雲

 

35cmシュミットカセグレン望遠鏡 

レデューサー 

合成焦点距離2485mm(F7)

露出10分を6枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D 

ISO800

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PVフィルター

 

M57 リング星雲

 

35cmシュミットカセグレン望遠鏡 

レデューサー 

合成焦点距離2485mm(F7)

露出6分を4枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D 

ISO800

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PVフィルター

 

 

NGC6826 まばたき星雲

 

35cmシュミットカセグレン望遠鏡 

直焦点3910mm(F11)

露出20秒を7枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D 

ISO1600

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PVフィルター

 というふうに、きれいな色合いが強調されるのであります。赤は主に水素の輝線、青緑は主に酸素の輝線と考えられます。ところが、NBN-PVフィルターをもってしても色が出てこないのがあります。それが、NGC7027であります。

 

NGC7027(画像1)

 

35cmシュミットカセグレン望遠鏡 

直焦点3910mm(F11)

露出10秒を3枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D 

ISO800

ホワイトバランス  オート

UIBARフィルター

 

 

 

NGC7027(画像2)

 

35cmシュミットカセグレン望遠鏡 

直焦点3910mm(F11)

露出10秒を3枚コンポジット合成(加算平均)

キヤノンEOS kiss D 

ISO800

ホワイトバランス  オート

UIBAR&NBN-PVフィルター

 

 

  

 UIBARフィルターはいわゆる赤外カットフィルターなので、画像1はノーフィルターと考えてよいでしょう。画像2はNBN-PVフィルターで輝線を強調しているわけです。しかし、画像2でもほとんど白色です。

 本当に色がないのか?・・・NGC7027とNGC6826(まばたき星雲)の元画像どうしを見比べてみましょう。どちらも白鳥座にある天体で、撮影はいずれも2008年8月8日のほぼ同一時間帯ですから、空の条件も同一と考えてよいでしょう。

NBN-PVフィルターを使用して撮影した元画像(ダーク減算、コンポジット済み)どうしの比較

2008年8月8日 3時16分から撮影 地平高度約49°

NGC7027はほぼ白色で、色彩に乏しい。

2008年8月8日 2時25分から撮影 地平高度約44°

NGC6826は明らかに青色系の色彩である。


 眼視観測でのフィルターの有無による見え方の違いも、それぞれでずいぶん異なります。比較してみましょう。

眼視観測での見え方

NGC7027はノーフィルターがいちばん見やすく、暗帯でふたつに割れているようすもはっきりわかる。NBN-PVフィルターを使用すると、暗くなってしまう。まるで銀河のような見え方の違いである。

NGC6826はノーフィルターでは、見つめると中心星、目をそらすと中心星が消え丸い星雲のみ。見つめたり目をそらしたりをくり返すと、まさに「まばたき星雲」そのもの。NBN-PVフィルターを使用すると、星雲自体は良く見えているが、中心星が見えなくなってしまい、“まばたかなく”なってしまう。


 こうしてみると、どうやらNGC7027はいわゆる白色光に近く、主に連続スペクトルで輝いていると考えられます。大望遠鏡による観測では酸素が一酸化炭素分子や水分子の形で存在することや、さらには石油・石炭に似た炭化水素つまり有機物の存在もわかってきているようです。酸素原子そのものの発光でなければ今回の観測では見えませんが、こうした分子ガスも多量に存在しているのでしょう。ハッブル宇宙望遠鏡による観測では中心星の存在も確認されています。・・・しかし、それにしても白い。

 惑星状星雲が連続スペクトルとは!・・・これは、とてもめずらしいことであります。

 惑星状星雲は通常、白色矮星となった中心星からの紫外線によって電離した原子が輝線スペクトルで発光しています。いわゆる輝線星雲であります。しかし、このNGC7027では塵が多く、中心星からの光を塵が反射(散乱)して輝いているために連続スペクトルで輝いているのでしょう。親星である恒星(中心星)は主系列星から赤色巨星へと進化しながらいったん表面温度を下げ、その後高温の白色矮星となっていきます。しかし、高温の白色矮星になる一歩手前では、まだ温度が十分に上がっておらず、ガスの原子を電離して発光させるより、反射によって塵を輝かせるほうが卓越してしまい、その結果として連続スペクトルで輝いているのでしょう。そう考えると、このNGC7027はとても若い、つまり惑星状星雲の前段階にあるような、すなわち原始惑星状星雲いうことになります。実際には塵と先ほどの分子ガスの混ざりものであろうと考えられます。
 

 1000万度を超えるような超高温の恒星の中心部で分子がつくられるのはさすがに無理でしょうが、そこでは原子核融合によって炭素や酸素の原子がつくられてきたわけです。ですから、赤色巨星になり、やがて外層部が大きく広がって低温になったとき、一酸化炭素分子や、そこには水素原子も存在しているでしょうから水分子や炭化水素・有機物が合成され、分子ガスとなり塵もつくられる可能性はあるといえるでしょう。もしかしたら、こうした分子ガスや塵には、かつて存在した惑星、とりわけ地球型惑星の名残もまざっているのかもしれません。そして、やがて宇宙空間に広がり、新たな恒星系の材料となっていくのでしょう。

 近年、こうした原始惑星状星雲が発見されはじめ、恒星の進化の最終段階に科学のメスが入れられようとしています。しかし、多くは存在していません。それは、数10億年という恒星の寿命に比べて、原始惑星状星雲の段階が非常に短いことを意味しています。ちなみに、この段階はせいぜい1000年程度といわれていて、一瞬の出来事ともいえます。非常に短命であるが故に数少ない貴重な天体をながめているのだと思うと、なんだかワクワクしてきます。

 

※ NGC7027・・・はくちょう座にある惑星状星雲で、見かけの大きさが18″×11″と木星の視直径の半分より小さな天体ですが、実際の大きさは0.31光年×0.19光年とされています。この大きさは長径方向で約2万AU、つまり地球・太陽間の距離の2万倍ということになります。等級は10.4等でも、見かけの大きさが小さいので表面輝度が高くとても見やすいのですが、低倍率では恒星と見間違えそうになります。3580光年という距離を実感させられます。 天文年鑑によると、距離は4600光年とされています。